第61回ペプチド討論会 学会発表お知らせ

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PepTenChip®の臨床応用 (2024)

新規原理のマイクロアレイと胃液による前がん診断
 (2023年第61回ペプチド討論会 口頭講演 大津)

最近完成した新規原理[1]に基づく新規バイオチップシステム、PepTenChip®の診断への応用例として、未病、胃がんリスク判定について報告する。体液には多くの化合物が含まれており、一般的には複雑な前処理を行ってから種々の検査を行うことが一般的である。本PepTenChip®システムはペプチドマイクロアレイであり、検体を直接添加する前後の蛍光強度変化を測定し、統計解析によるデータ処理によって、前処理なしに胃液検体の診断が可能である。本手法は、既知の疾患に特徴的とされる特定化合物(疾患マーカー)が未知でも検査することができる[2]。新規原理に基づき、ペプチドマイクロアレイPepTenChip®と蛍光検出装置PepTenCamを用いて胃がんになるリスクの分類技術を確立した。胃疾患のうち、慢性表層性胃炎は発癌リスクがないが、腸上皮化生や慢性萎縮性胃炎等は、発癌リスクを伴う前癌病変と考えられる。発がんリスクの客観的同定は、現在、内視鏡による組織採取とそれに続く病理診断によってのみ可能とされている。心臓病や脳血管障害で抗凝固薬を服用している患者等では、生検が禁忌である。本研究の目的は、内視鏡による組織採取と病理診断無しに発癌リスクを同定する客観的な方法を提供することである。PepTenChip®による検出は、分析対象物対捕捉分子の1:1対応に限定されない。我々は、患者(約50名)の胃液を採取し、βシート、βループ、α-へリックスの3種類の構造ペプチドをアレイ化し解析に使用した。ライブラリーの中で、特にα-ヘリックスは胃癌のリスクとリスクのない被験者の間の最適な分類結果を与え、分類結果の整合性は胃液と同時に採取した胃粘膜組織の病理学的検査の結果により確認した。これまで胃液の直接分析法は知られていなかったが、PepTenChip®は、組織を採取することなく、胃がんリスクをより簡単かつ客観的に分類できる。したがって当該ペプチドマイクロアレイは胃癌前癌病変の診断に貢献できる。


ペプチドマイクロアレイPepTenChip®システムによる脳脊髄液を用いた神経疾患、多発性硬化症、非定型多発性硬化症の分類
 (2024年第61回ペプチド討論会 口頭講演,名古屋)

ペプチドマイクロアレイ、PepTenChip®システムの多発性硬化症(MS)および非定型MS(AMS)の分類への応用を報告する。体液には多くの化合物が含まれているが、PepTenChip®システム[1]と統計的データ処理により、特定の化合物を物理化学的に同定することなく分類できた[2]。MSは、脳、脊髄、視神経に生じる炎症を特徴とする中枢性脱髄疾患の一つであり、原因不明で根治的な治療法はない。世界の患者数は、視神経脊髄炎(NMO)を含めて約230万人で、その数は年々増加しており、日本では第13の希少難治性疾患である。MSには定型型(MS)と非定型型(AMS)とが存在し、治療法や治療効果が異なることから、治療前の正確な診断が重要であるが、完全に区別できる方法は知られていない。この疾患を直接診断するための確立された方法はなく、一般的にはMRI、脳脊髄液検査、疾患分類のための抗体検査が行われ、他の可能性を除外した上で、マクドナルド基準が適用される。AMSとMSでは治療反応性が異なるため、治療前の鑑別が臨床的に重要とされる。一方で、有効なバイオマーカーは知られておらず、信頼できる診断法がないため、臨床医は簡便な客観的方法を望んでいる。我々は、57検体の脳脊髄液サンプルを収集し、捕捉分子として2種類の構造化ペプチドアレイ、β-loopとα-helicesを解析に使用した。その中で、β-loopペプチドがこの目的により適していることがわかり、MSとAMSの識別に適したペプチド配列を解明した。当該バイオチップによる結果は、治療方針を決定するための貴重な診断情報となる。ここに、PepTenChip®が難病や類似疾患の診断に有用であることが示された。目的に応じて捕捉ペプチドを選択し、マイクロアレイを作製することで、多様な疾患の特性解析に貢献できる。


主な関連参考文献

[1] 軒原清史, 化学工学第88巻2号 page 61-64, 新規原理に基づくバイオチップ(ペプチドマイクロアレイ)の開発と診断への応用 (全技術の総説)

[2] Tominaga, Y., et. al. (2018) Bioorg. Med. Chem., 26, 3210-3216; Ishigami, N., et., al. (2012) Mov. Disord. 27, 851-857; Tominaga, Y., et., al. (2015) Bioorg. Med. Chem. Lett. 25, 611-615.

PepTenChip/PepTenCam 関連動画

日本語字幕スーパー  https://youtu.be/-Zli6QZVetU

英語字幕スーパー    https://youtu.be/xcar8LTKAcU